あると、彼はかなしげにほほえんで、いろいろとなだめるのでした。
「ね、アロアちゃん。お父さんの御きげんを悪くしないで下さいね。お父さんは、僕があなたを怠け者にでもするようにおもっていらっしゃるんだからね。だから僕と一しょに遊ぶのがお気に入らないんでしょう。でもお父さんはいい方で、ほんとにあなたを可愛がっていらっしゃるんだから、僕たちは、御きげんを損ねるようなことをしてはいけない。ね、アロアちゃん。よく分ったでしょう。」とは言えそれは、かなしさ、さびしさをおさえぬいた言葉でした。
ネルロにとっては、微風《そよかぜ》にそよぐポプラ並木の朝の景色も、もはや以前のように、たのしげに晴々しくは見えませんでした。その古ぼけた赤い風車は、ネルロにとっては一つの目印で、そこまで来ると、一休みするのがきまりでした。そして、往きにもかえりにも、水車小屋の人達に元気よく挨拶すると、その低い水車小屋の木戸の上にアロアの金髪がちらとゆれて、やがて、アロアの小さなもみじのような手に、パトラッシュの御馳走のパンの皮や魚の骨などが持って来られるのが常でした。――が、いまは――パトラッシュはふしぎそうな目つきで、木戸
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