。ある時は手をつないで教会堂へ行ったり、水車小屋の中の大きな炉ばたにすわりこんだり。――アロアはその金持な粉挽やのたった一人娘でした。いつもさっぱりと可愛い着物をつけて、お祭の時など両手に持ち切れないほどお菓子だの、おもちゃだの買うことができるのでした。アロアがはじめて洗礼式に出かけた時、その捲毛の金髪の上へかぶった帽子はおばあさんゆずりのクリン織のとても見事なぜいたくなもので、万事がそういう風ですから、アロアはまだやっと十二なのに、もう近所の人々の口の端にのぼって、あの娘をうちの息子のお嫁にもらったらさぞいいお嫁さんになるが、などと噂されました。しかし本人のアロアは一向無邪気な可愛い子供で、自分の家《うち》の財産のことなど知りもせず、とにかく一番好きなのはジェハンじいさんとこの孫と犬とでありました。
アロアの父親は、コゼツの旦那と言われていい人だが、すこし頑固でした。
ある日、彼が水車小屋のうしろの畑を通りかかると、丁度ネルロとアロアが遊んでいました。娘が真中の高くつんだ枯草の上にすわり、パトラッシュの大きな鳶いろの頭をひざにのせている。あたりにはひなげしや、矢車草などと色とりど
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