の頸にかけてやり、子供らしい赤いやわらかい唇で、何度も何度も、接吻《キス》するのでした。こうしてパトラッシュは、すっかり元気をとりもどして、もと通りの大きな、がっしりと力が満ちた犬になりました。はじめ、パトラッシュは、以前と様子のちがっているのが、気がかりな風でしたが、間もなく、すべてのことが分って来たので、すっかり安心しました。こうしておじいさんと子供の親切な心が分ると共に、パトラッシュの心の内には、生れてはじめて愛というものが、非常な力で湧き上ったのでした。そしてその愛は、その後一生、パトラッシュが死ぬまで、一度も鈍ったことはありません[#「ありません」は底本では「ありありません」]でした。パトラッシュは、恵まれた、今度の新しい生活のすべてを知ろうとして、その澄んだ目で、じっと注意深く、おじいさんと子供のすることを見守っていました。
さてこのジェハンじいさんの仕事と言うのは、毎朝、近所の、牧場主たちの牛乳を、小さな手車で、アントワープの町へ運ぶことでした。村の人達は、このおじいさんをあわれんでそうした仕事を与えていたのでした。何しろごくの正直者ですから、牛乳を運んでもらうばかりで
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