なく、村にいて、仕事としては、畑の番、牛小舎、鶏小舎の番、小さな田の番、などいろいろたのまれるのでした。しかし、もうそろそろおじいさんには、仕事がむずかしくなって来ました。なにしろ八十三という年寄になったのですもの。アントワープへ行くにしても、三里からの道を歩かねばならないのでした。
パトラッシュは、はじめて、しゃんと起き出た日、おじいさんが持って出たり持ってかえったりする牛乳缶を、じっと気をつけてながめていました。鳶いろの頸に野菊の花環を巻かれたままで、日向ぼっこをしながら。そして、そのあくる朝になると、パトラッシュは、おじいさんがまだ車に手をかけないさきに起きて行って、ぴったり、車の梶棒の間にからだをおきました。それは丁度、私は車をひくことを知っています。どうかせめてこんな仕事でなりと、御恩がえしをさせて下さい、と言うかのようでした。が、このおじいさんは、犬に車を曳かせるのは、神さまが犬をつくられた御心ではない、と信じている人でしたから、それを長いこと、許さずにいました。しかし、パトラッシュはどうしてもそれを止めません。おじいさんが、自分のからだを梶棒に結《ゆわ》いつけてくれない
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