た。
 ある日のこと、いつものように、あちこちの船につんである、荷物をながめていました時、その中に、私の名を書いたこうり[#「こうり」に傍点]が、たくさんつんであるのを見つけました。それで、すぐに、その船長のところへ行って、そのこうりの持主《もちぬし》はだれです、と聞いてみました。
 すると船長は、
「ああ、それはね、バクダッドの商人の、シンドバッドという人のです。その人は、航海に出るとまもなく、むごたらしい死に方をなすったのです。ある時、この船に乗っていた人たちが、ねむっていた大きなくじらの背中を、草のはえている島だと思って、その上に上ったのです。そして、たき火をしました。すると、熱いので、くじらが目をさまして、いきなり海へ沈《しず》んでしまったのです。それで、たくさん人が死にました。その中にシンドバッドさんもいたのです。そういうわけですからね、私はこの品物をすっかり売って、お金にして、あの方の身内《みうち》とか、しんるいとかいう人でもあったら、お渡ししたいと思っているのです。」
と、話したのでありました。
 それで私は、
「船長、私がそのシンドバッドです。このこうりは、みんな私ので
前へ 次へ
全68ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング