す。」と、言いました。
 すると、船長は、急におそろしい顔をして、
「まあ、世の中はゆだんもすきもありゃしない。おい、お前さんが何と言ったってね、私は、ちゃあんとこの目で、シンドバッドが海に沈んだところを見たのだぜ。」
と、どなりつけました。
 私は、すぐに、あれから後のことを何もかも船長に話しました。ところへちょうど、船に乗っていた商人たちが出て来て、私をほんとうのシンドバッドだと言ってくれました。
 船長は、はじめて、大そうよろこびました。そして、
「すぐに、荷物をお引き取りください。」と、言いました。
 私はその中から、なるべく見事なものをえらび出して、王さまにさし上げました。それから、あとの品はみな売りはらって、びゃくだんと、にっけいと、しょうがと、はっかと、丁子香《ちょうじこう》とを買い入れました。
 それからもう一度、この船長の船に乗って出かけました。
 その帰りみち、私はある島で、持って来た香料《こうりょう》をみんな、大へん高く売ることができました。それで、いよいよバクダッドへ上る時には、一万円の金貨ができていました。
 家の者たちは、私が帰って来たので、大へんよろこびま
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