し上げたいと思うのだが、お前、持って行ってくれまいか。」
と、王さまがおっしゃいました。
 私は、はっと首をうなだれました。私の顔は、きっと、死んだ人のように、まっ青《さお》になっていたことでしょう。
「陛下、せっかく陛下のおたのみではございますが、私は、もうけっして、旅へは出まいと、神さまにお約束しましたので。」
 やっと、こうお答えしました。それから、ぽつりぽつりと、今まで六ぺんの航海で出あった、いろいろさまざまなぼうけんのお話をしました。
 王さまは、びっくりなさいました。けれども、どうしても、この使にだけは行ってくれ、とおっしゃるのです。
 おことわりがしきれなくなって、私は「しょうちしました。」と申し上げてしまいました。
 カリフさまのお使の船は、バクダッドを出立しました。
 それから、おだやかな航海をつづけた後、セレンジブの島へつきました。
 町の人たちは、大よろこびで、迎《むか》えに来てくれました。
 私は、さっそく御殿へうかがって、役人に、私の来たわけを話しました。
 役人は、私を御殿の中へつれて行きました。やがて私は、王さまの前に出ました。
 王さまは、
「おお、シン
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