した海が見えていました。船長はみんなに、この島へ上って、少し休んでもいいと言いました。
私どもは大よろこびで、さっそく、この緑の牧場に上りました。そして、そこらじゅうを歩きまわったり、寝ころんだりしました。中でも、私たち五六人の者は、たき火をして、晩ごはんをこしらえようとしました。
やっと、たき火がもえついた時分でした。船から、大きな声で、
「早く、帰って来ーい。」
と言う声が、聞えました。
私どもが、島だとばかり思っていたのは、ほんとうは、ねむっていた、くじらの背中《せなか》だったのです。
みんなは、波打《なみうち》ぎわへつないでおいたボートをめがけて、いちもくさんに走り出しました。けれども、私がまだボートまで行きつかないうちに、早くも、このくじらは、海の中へもぐってしまったのであります。
私は水の中で、ずいぶんもがきました。そして、やっと板きれにとりつきました。それは、たき火をするために、船から持って来たものでした。
ところが船では、何かごたごたがあって、私のことなんか忘れていたらしいのです。船長は、風が吹き出すと、船を出してしまいました。
私は、波にもまれながら、と
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