番《ばん》はじめの航海《こうかい》の話《はなし》
私の父は、かなりたくさんの財産を残して死にました。その時分、私はまだ若かったものですから、それをむだ使いして、も少しですっかりなくするところまでゆきました。しかし、これはうっかりしていると、貧乏人になってしまうぞと、気がついたものですから、急に大決心を起しました。そして、残っているお金をかぞえてみて、商売をすることにきめました。それから私は貿易《ぼうえき》商人の仲間へ入り、船に乗りこむことにしました。次から次と、船がつく港《みなと》で、持って行った品物を売ってお金にしたり、また、あちらの品物ととりかえっこをしようと思ったからです。
まず、私の、一番はじめの航海がはじまりました。
はじめの二三日は、私はだいぶ、船によいました。けれども、やがて、だんだんなれてきて、よわなくなってしまいました。
さて、ある夕方のことでした。風がぴったりとしずまって、船のゆれも、ばったりとまってしまいました。
ちょうどその時、私どもは、青々と草のはえた、平たい小さな島のそばを走っていたのです。その島は、まるで牧場《まきば》のようで、その向うに青々と
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