して、とうとう、私一人になってしまいました。私はもともと、何でも、ほんの少ししかたべないたちでしたから、それで私の食べ物が、一番おしまいまで残っていたのであります。
「ああ、悲しいことだ。私が死んだら、だれがうずめてくれるのか。ああ、どうしてももう、自分の国へ帰ることはできないのか。」
 ある日のこと、そんなことを思いながら、川のふちを歩いていました。そして、岩穴の中へ流れこんでゆく水を、じっと見つめていました。そのうち、ふと、ある考えが浮かびました。
 それは、この川は、一たんは山の中へ流れこんでいるけれど、きっと、またどこかへ流れ出ているにちがいない。そして、この川を下《くだ》ってみたら、ひょっとしたら、助かることができるかもしれない、ということでした。
 それから、急に元気が出てきて、海岸にちらばっている、木や板を拾って来て、丈夫ないかだを組みました。そして、たくさんのダイヤモンドだの、ルビーだの、難破船の荷物だのを、つみました。それから、忘れないで、少し残っていた食べ物もつみました。
 そして、よくよく気をつけて、いかだを岸からはなしました。
 すると、すうーっと気持よく走り出
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