、だんだん、たよりなくなってゆくばかりでした。
 すると、ある時のこと、にわかに船長が、ずきんをぬぎ捨てたかと思うと、ぐんぐんかみの毛を引きむしって、気ちがいのようになってしまいました。
 みんなは、びっくりして、ばらばらっと、船長のそばへかけよって行きました。
「どうしたんです、どうしたんです。気をしっかり持ってください。」と、てんでに言いました。
 すると船長は、
「もうだめです、もうだめです。船は、あぶない潮《しお》の流れの中へ入ってしまいました。もう二三分したら、何もかも、みじんにくだけてしまうでしょう。」と、言ったのでした。
 全くでした。船長の言葉が終るか終らないうちに、船は、きみわるく、すうーっと走り出したかと思うと、見る見る、けわしい山のすその、岩の折れかさなった海岸へ、どんとつきあたってしまいました。そして、粉《こな》みじんになってしまいました。
 けれども、みんな、ふしぎに助かりまして、つんでいた荷物と、少しばかりの食べ物と一しょに、岩の上へ打ち上げられたのです。
 海岸には、難破船《なんぱせん》のかけらと、まっ白になった骨とが、たくさんちらばっていました。
 船長
前へ 次へ
全68ページ中53ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング