、だんだん、たよりなくなってゆくばかりでした。
すると、ある時のこと、にわかに船長が、ずきんをぬぎ捨てたかと思うと、ぐんぐんかみの毛を引きむしって、気ちがいのようになってしまいました。
みんなは、びっくりして、ばらばらっと、船長のそばへかけよって行きました。
「どうしたんです、どうしたんです。気をしっかり持ってください。」と、てんでに言いました。
すると船長は、
「もうだめです、もうだめです。船は、あぶない潮《しお》の流れの中へ入ってしまいました。もう二三分したら、何もかも、みじんにくだけてしまうでしょう。」と、言ったのでした。
全くでした。船長の言葉が終るか終らないうちに、船は、きみわるく、すうーっと走り出したかと思うと、見る見る、けわしい山のすその、岩の折れかさなった海岸へ、どんとつきあたってしまいました。そして、粉《こな》みじんになってしまいました。
けれども、みんな、ふしぎに助かりまして、つんでいた荷物と、少しばかりの食べ物と一しょに、岩の上へ打ち上げられたのです。
海岸には、難破船《なんぱせん》のかけらと、まっ白になった骨とが、たくさんちらばっていました。
船長
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