ともしませんでした。せっせと、小さいパンを七つと、水さしにいっぱいの水とを用意していました。そして、それを私に持たせて、穴の中へつき落し、石のふたをしてしまいました。
私はたった一人、暗い穴の中に、とじこめられてしまったのです。しばらくの間は、泣くにも泣かれませんでした。
それから七日の間は、ともかくも、少しながらもパンと水がありましたから、生きていることができました。しかし、それもとうとうなくなってしまった時、私は、いよいよ死ぬのだなと思いました。
その時、急に、ほら穴の向うがわに、何か生きた物がとびこんで来たのが、目に入りました。そして、その小さな、ねずみ色をしたものが、私の前をぴょんととんで行きました。
私は、はっと立ち上りました。そして、そのあとを追いました。すると、まもなくそれが、岩のわれ目の中へ入って行きました。私もまた、思いきって、その中へとびこみました。中は大へん、きゅうくつでした。おしつぶされるような思いをしながら、なおもそのあとをつけて行きました。そして、これは、ずいぶん来たもんだな、と思った時でした。気持のいい海の風が、熱《あつ》くなっていた私のほおに、さ
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