す。」
と、言うではありませんか。
「まあ、なんておそろしいことだろう。そんなことは、とてもほんとうとは思われない。」
 私は、それを聞いて、こうさけびました。
 それから、王さまに、このことをうかがいました。すると王さまは、ただそれは、この国のおきてなんだから、そうされるのだ、とおっしゃったきりでした。
 それから、だれに聞いても、これをふしぎに思っている人はありませんでした。
 まあなんてこわいことだろう、なんていやなことだろう、と思っているうちに、とうとうそれが、私の身の上にふりかかってきました。ある日のこと、私の妻が、病気になったのです。そして、わずかのわずらいの後、とうとう死んでしまったのです。
 すると、町の人がやって来て、妻に一番いい着物を着せました。そして、髪《かみ》には宝石をかざりました。それから、高い山の上へ運んで行きました。
 山の上には、石が一つおいてありました。その石を持ち上げると、下は深い深い穴になっていました。そしてその中へ、私の妻は落されてしまいました。
 私は、どうか助けてくださいと、ずいぶんたのみました。しかし、だれも、私が何を言っているのか、聞こう
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