うのを見ました。すると、王さまのご命令通りにしたくなりました。それから二人は、一しょに仲よくくらしてゆきました。私は、そろそろバクダッドのことを忘れはじめました。
 しかし、ある日のことでした。大へんなことが起ってしまいました。というのは、私がふだん仲よくしていた、近所のおかみさんが死んだのです。大へん気の毒に思ったものですから、すぐおくやみに行きました。そして、
「あんまりくよくよなさらないように。おかみさんはああして、早くおなくなりなすっても、そのかわりにあなたが、長生きがおできになりましょうよ。」と、言いました。
 その人は、うつむいたまま、じっと私の言うのを聞いていましたが、やがて、
「よしてください。どうして、あなたは、私がこれから長生きができるなんて、おっしゃるのです。私はもう二三時間したら、家内《かない》と一しょに、うずめられてしまう身じゃありませんか。……ああ、あなたはまだ、この国のおきて[#「おきて」に傍点]をご存じなかったのですね。ここでは、妻《つま》が死んだら、夫はそれと一しょにうずめられるのです。そしてもし、夫の方が先に死ねば、妻がそれと一しょにうずめられるので
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