ある日、私は王さまに、
「陛下《へいか》、なぜ、この国では、くらをつける人がないのでございますか。」
と、うかがってみました。
 すると王さまは、ふしぎそうな顔をなすって、
「何を言ってるのかね。わしはまだ、そんな言葉を聞いたことがないよ。」
と、おっしゃったのです。
 そこで私は、なめし皮を作る職人《しょくにん》の中から、りこうそうなのを一人つれて来て、りっぱなくらを作ることを教えました。そして、私もまた、あぶみだの、はくしゃだの、たづなだのを作りました。そして、これらがみんな出来上ってから、そろえて王さまにさし上げました。そして、どういうふうに使うということもお教えしました。
 すると、すぐに王さまは、それをお使いになって、大そうおよろこびになりました。
 また、それを見て、身分の高い人たちは、だれもかれもほしがりました。それで、私はまた、みんなに作ってやりました。
 さて、そのうちに、私は、この島でも指おりの金持になってゆきました。
 王さまは、とうとう私に、この島の美しい娘と結婚《けっこん》をして、この島の人間になってしまうように、とおっしゃいました。
 私は、その美しい娘とい
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