というほどでした。
 仕方がないので、私どもはともかくも、その島のかげで、あらしをよけるために、いかりをおろしました。
 けれども、船長が、この島をつくづくと見た時、急にかみの毛を引きむしって、
「しまった、ここは猿《さる》の山にちがいない。」と、さけんだのであります。
 それから船長は、この島へ来て、生きて帰った者はないのだ、という話をしました。なぜかというと、この島には、人よりも猿によくにたものがたくさん住んでいて、おまけに大そう、けんかずきだというのです。
 船長のこの話が終らないうちに、もう小さなやつが大勢、海岸へ出て来たかと思うと、船をめがけて、ぽちゃぽちゃと泳《およ》いで来はじめました。
 それが近づいて来た時、よくよく見ると、一寸|法師《ぼうし》のようで、猿よりもにくらしいのです。そして、からだじゅうに赤い毛が、ぎっしりはえていました。
 やがて船に泳ぎつくと、みんなして船を海岸へ引っぱって行きました。そして、私どもを陸《おか》に追い上げて、こんどは自分たちばかりが船に乗って、ほかの島をさして、こいで行きました。
 私どもは、こわごわ、そこらじゅうを歩いてみました。そして
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