て、天をあおぎながら、ひとりごとを言ったのです。
「まあ、なんて、ここの家の主人と、私とは、ちがうのだろう。まるで、天と地とのちがいだ。ここの家の主人は、毎日々々、お金を使いたいだけ使って、その日その日を楽しく遊ぶよりほかには、何にもすることがないのに、私ときたら、朝から晩まで、せっせと汗《あせ》を流して働いても、やっと、まずいパンを少しぽっちしか、買うことができないんだ。ああ、ああ、まあどうしてこの人は、そんなに仕合せになれたんだろう。そしてまた、私は、どうしてこう、年がら年じゅう貧乏なんだろう。」と。
そして、三十メートルばかり歩いていると、一人の召使《めしつかい》が追っかけて来て、後からヒンドバッドの肩をたたきました。そして、
「家のだんなさまが、お前さんに会いたいから、つれて来いと、おっしゃられた。さあ、ついておいで。」
貧乏な荷かつぎは、びっくりしました。きっと、さっきのひとりごとが、聞えたんだな、と思ったものですから。
けれども、召使は、そんなことにはおかまいなしで、さっさとヒンドバッドを家の中へつれて入り、大広間《おおひろま》へ通しました。
大広間には、大勢のお客
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