お》りが、におってきていました。
ヒンドバッドは、まあ、こんなりっぱな家には、いったい、どんな人が住んでいるのだろうかと思いました。
それで、玄関《げんかん》に立っている番人に、
「これはいったい、どなたの家ですか。」と、聞いてみました。
この番人は、ずいぶん上等の着物を着ていましたが、ヒンドバッドの言葉を聞いて、目をまるくしました。そして、
「まあ、お前さんは、バクダッドに住んでいながら、私のご主人さまの名を、知らないというのかい。船乗のシンドバッドさまといって、世界じゅうを船で乗りまわして、世界じゅうで一番たくさん、ぼうけんをした方じゃないか。」
と、言ったのでした。
ヒンドバッドも、今までたびたび、このふしぎな人の名前と、その人が大したお金持であるといううわさは、聞いていました。それで、ははあなるほどと思って、もう一度、その御殿のような家を見上げました。それからまた、上等の着物を着ている番人を、じろじろ見ていました。そのうち、だんだん悲しくなってきたし、また、ねたましくもなってきました。
「あああ。」ヒンドバッドは、そう、ため息《いき》をついて、荷をかつぎ上げました。そし
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