さんのお供をする六人のどれいと、王さまのお馬よりもっと美しい馬と、そして、一万枚の金貨を十|箇《こ》のさいふに分けて入れて持って来いと命じました。
 さて、これらのものがみんなととのってから、アラジンは着物を着かえてお城へ向いました。そして、りっぱな馬に乗って四十人のどれいを召しつれて行くみちみち、両がわに見物しているたくさんの人たちに、十箇のさいふから金貨をつかみ出しては、ばらばらとまいてやりました。見物人たちは、きゃっきゃっと言って大よろこびで、それを拾いました。しかし、その中のだれにだって、昔、町でのらくらと遊んでばかりいたなまけ者が、こんなになったとは気がつきませんでした。これはきっと、どこかの国の王子さまだろうと思っていました。
 こんなものものしいありさまで、アラジンがお城へつきますと、王さまはさっそくお出迎えになって、アラジンをおだきになりました。それから家来たちに、すぐお祝いの宴会《えんかい》と、婚礼の用意をするようにとおっしゃいました。するとアラジンは、
「陛下《へいか》、しばらくお待ちくださいまし。私はお姫さまがお住みになる御殿《ごてん》を立てますまでは、婚礼はできません。」と、申し上げたのでありました。
 そうして、家へ帰って、もう一度ランプのおばけを呼びよせました。そして、
「世界一のりっぱな御殿を作れ。その御殿は、大理石《だいりせき》と、緑色の石と、宝石とで作らなければいけない。そしてまん中に、金と銀とのかべとまどが二十四ついている大広間を作るのだ。それからそのまどは、ダイヤモンドだの、ルビーだの、そのほかの宝石でかざらなければいけない。けれども、たった一つだけは何にもかざりをしないで、そのままにしておけ。それから、また馬やも作らなければいけない。そして、御殿の中には、たくさんのどれいもいなければいけない。さあ、これだけのことを早くやってくれ。」
と、言いつけました。
 あくる朝、アラジンは、世界一かと思われるほどの御殿が立っているのに気がつきました。御殿の大理石のかべは、朝日の光を受けて、うすもも色にそまっていました。まどには宝石がきらめいていました。
 アラジンはさっそく、お母さんと一しょにお城へまいりました。そして、きょう婚礼をさせていただきたいと申し入れました。お姫さまはアラジンをごらんになって、アラジンと仲《なか》よくしようとお思いになりました。町じゅうはお祝いで大にぎわいでした。
 そのあくる日は、王さまの方からアラジンの新御殿をおたずねになりました。そしてまず大広間へお通りになって、金の銀とのかべと、宝石をかざりつけたまどとをごらんになって、大へんご感服《かんぷく》なさいました。そして、
「これは世界で一ばん美しい御殿にちがいない。わしには、この御殿の中にあるたった一つのものでさえ、世界第一の宝物のように思われる。だが、ここにたった一つ、かざりつけをしてないまどがあるのは、どういうわけだね。」
と、おたずねになりました。するとアラジンは、
「陛下、それは、陛下のとうといお手で、かざりつけをしていただきたいと存じまして、わざわざ残しておいたのでございます。」
と、お答えしました。
 王さまは、大へんおよろこびになりました。そしてすぐにお城の装飾《そうしょく》がかりの人たちに、このまどをほかのまどと同じようにかざりつけるように、お言いつけになりました。
 装飾がかりの人たちは、何日も何日も働きました。そして、まだ、まどのかざりつけが半分もできないうちに、持っていた宝石をすっかり使ってしまいました。王さまにこのことを申し上げますと、それでは自分の宝石をみんなやるから使うように、とおっしゃいました。それを、使いはたしても、なおまどは出来上りませんでした。
 それで、アラジンは、かかりの人たちに仕事をやめさせて、王さまの宝石を全部返してしまいました。そして、その晩もう一度ランプのおばけを呼びました。それで、まどは夜のあける前に出来上りました。王さまと、装飾がかりの人たちは、おどろいてしまいました。
 けれども、アラジンはけっして自分のお金持であることをじまんしませんでした。だれにでもやさしく、礼儀《れいぎ》ただしくつきあっていました。そして貧乏人にはしんせつにしてやりました。それでだれもかれもアラジンになつきました。アラジンは、また王さまのために、何度も何度も、戦争に行っててがらを立てました。それで、王さまの一番お気に入りの家来になりました。

 けれども、遠いアフリカでは、アラジンをいじめる悪だくみが、ずっと考えつづけられていました。あの伯父さんだといってだました悪者のおじいさんのまほう使は、まほうの力によって、自分が地の下へとじこめてしまった男の子が、あれから助かって、大へんな金持になったということを知ったからであります。そして、おこって自分のかみの毛を引きむしりながら、
「あいつめ、きっとランプの使い方をさとったのにちがいない。おれは、ランプをとり返す方法を考えつくまでは、いまいましくって、夜もおちおちねむることができない。」
と、どなっていたのでありました。
 それから、やがてまた、しな[#「しな」に傍点]へやって来ました。そしてアラジンの住んでいる町へ来て、すばらしい御殿を見ました。御殿があんまり美しいのと、アラジンがお金持らしいのに腹が立って、息《いき》がとまってしまうほどでした。そこで、まほう使は商人《しょうにん》にばけました。そして、たくさんの銅《どう》で作ったランプを持って、
「ええ、新しいランプを古いランプととりかえてあげます。」
 町から町へ、こう言いながら歩きました。
 この呼び声を聞いて、町の人たちは、ばかげたことだと笑いながらも、めずらしそうにまほう使のそばへたかって来ました。こんなことを言う男は、気ちがいかもしれないと思ったものですから。
 ちょうどこの時、アラジンはかり[#「かり」に傍点]に出て、るすでした。お姫さまはただ一人、大広間のまどによりかかって、外の景色《けしき》をながめていらっしゃいました。町から聞えてくる呼び声が、耳に入ったものですから、さっそくどれいをお呼びになりました。そして、
「あれは何と言っているのか聞いておいで。」と、おっしゃいました。
 すぐにどれいは聞いて帰って来ました。そして、さもさもおかしくてたまらないというふうに笑いながら、
「ずいぶん、へんなおじいさんなのでございますよ。新しいランプを古いランプととりかえてあげます、と申すのでございます。そんなばかげたあきないがございますでしょうかねえ。ほほほ……」と、申し上げたのでございました。
 お姫さまも、これをお聞きになって、大そうお笑いになりました。そして、すみの方のかべにかかっていたランプを、指さしになって、
「そこにずいぶん古ぼけたランプがあるじゃないか、あれを持って行って、そのおじいさんが、ほんとうにとりかえてくれるかどうか、ためしてごらん。」と、おっしゃいました。
 どれいはランプをとりおろして、町へ走って行きました。まほう使は、まほうのランプを両手でしっかり受けとってから、
「どれでも、おすきなのをお持ちください。」
と言って、新しい銅のランプをたくさんならべたてました。そして古いランプをだいじそうにだきしめて、ほかのことは何にも気がつかない様子《ようす》でありました。このどれいが、新しいランプをみんな持って行ったって、きっと気がつかなかったでしょう。
 それからまほう使は、少し歩いて、町はずれへ出ました。そして、だれも通っている人がないのを見すまして、まほうのランプをとり出しました。そしてしずかにこすりました。するとたちまち、あのおばけが、目の前へ立ちはだかって、「何のご用ですか。」と聞きました。
「お姫さまを入れたまんま、アラジンの御殿を、アフリカのさびしいところへ持って行って立ててくれ。」と、まほう使が言いました。
 すると、またたくまにアラジンの御殿は、お姫さまや、家来たちを入れたまんま、見えなくなってしまいました。まもなく、王さまが、お城のまどから外をおながめになって、アラジンの御殿がなくなっているのにお気づきになりました。
「しまった。アラジンはまほう使だったのだな。」
 王さまはこうおっしゃって、すぐに家来を召して、アラジンをくさりでしばってつれて来い、とお命じになりました。家来たちは、かり[#「かり」に傍点]から帰って来るアラジンに行きあいましたので、すぐにつかまえて、王さまの前へつれて来ました。町の人々は、アラジンになついていたものですから、アラジンが引かれて行くそばへよって来て、どうか、ひどい目にあわないようにと、おいのりをしてくれました。
 王さまはアラジンをごらんになって、大へんおしかりになりました。そして家来に、すぐアラジンの首を切れとおっしゃいました。けれども、町の人たちがお城へおしかけて来て、そんなことをなすったら、しょうちしません、と行って王さまをおどかしました。それで仕方なく王さまは、アラジンのくさりをといておやりになりました。
 アラジンは、どうしてこんな目におあわせになったのかと、王さまにおたずねしました。王さまは、
「かわいそうに、何にも知らないのか。まあここへ来てごらん。」と、おおせになりました。
 そしてアラジンをまどのところへつれて来て、アラジンの御殿が立っていたところが原っぱになっているのを、指さして教えておやりになりました。
「お前の御殿はともかく、姫はどこへ行ったのだろう。わしのだいじなだいじな娘はどこへ行ったのだろう。」と言って、王さまはお泣きになりました。
 アラジンはおどろきのあまり、しばらくは口がきけませんでした。どこへ御殿が行ってしまったのだろうかと、原っぱを見つめたまんま、だまって、ぼんやり立っていました。
 しかし、しばらくして、やっと口をきりました。
「陛下、どうか私に一月《ひとつき》のおひまをくださいませ。そして、もしもその間に私がお姫さまをつれもどすことができませんでしたならば、その時、私をお殺しになってくださいませ。」
と、申し上げたのであります。
 王さまはおゆるしになりました。アラジンはそれから三日の間は、気ちがいのようになって、御殿はどこへ行ったのでしょうか、とあう人ごとにたずねてみました。けれども、だれも知りませんでした。かえって、アラジンが悲しんでいるのを笑ったりしました。それでアラジンは、いっそ身を投げて死のうと思って、川のほとりへ行きました。そして、土手《どて》にひざまずいて、死ぬ前のおいのりをしようとして、両手をしっかりとにぎりあわせました。その時、知らずにまほうの指輪《ゆびわ》をこすったのでした。するとたちまち、指輪のおばけが目の前につっ立ちました。
「どんなご用でございます。」と、言うのです。アラジンは大そうよろこびました。そして、
「お姫さまと、御殿を、すぐにとり返して来てくれ、そして私の命を助けてくれ。」
と、たのみました。ところが、指輪の家来は、
「それは、あいにく、私にはできないことでございます。ただ、ランプの家来だけが、御殿をとりもどす力を持っているのでございます。」と、答えたのであります。
「それでは、御殿があるところまで私をつれて行ってくれ。そして、お姫さまのへやのまどの下へ立たせてくれ。」
 アラジンは仕方がないので、こうたのみました。この言葉を、言いきってしまわないうちに、もうアラジンはアフリカについて、御殿のまどの下に立っていました。
 アラジンは大へんくたびれていたものですから、そこでぐっすり寝《ね》こんでしまいました。しかし、ほどなく夜があけて、小鳥の鳴く声で目をさましました。その時は、もうすっかり、もとのような元気になっていました。そして、こんな悲しい目にあうのは、きっとまほうのランプがなくなったせいにちがいない、だれがぬすんだかを見とどけなければならぬ、と、かたく決心《けっしん》しました。
 さて、お姫さまは、この朝は、ここへつれて来られて
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