なりました。
 アラジンはおどろきのあまり、しばらくは口がきけませんでした。どこへ御殿が行ってしまったのだろうかと、原っぱを見つめたまんま、だまって、ぼんやり立っていました。
 しかし、しばらくして、やっと口をきりました。
「陛下、どうか私に一月《ひとつき》のおひまをくださいませ。そして、もしもその間に私がお姫さまをつれもどすことができませんでしたならば、その時、私をお殺しになってくださいませ。」
と、申し上げたのであります。
 王さまはおゆるしになりました。アラジンはそれから三日の間は、気ちがいのようになって、御殿はどこへ行ったのでしょうか、とあう人ごとにたずねてみました。けれども、だれも知りませんでした。かえって、アラジンが悲しんでいるのを笑ったりしました。それでアラジンは、いっそ身を投げて死のうと思って、川のほとりへ行きました。そして、土手《どて》にひざまずいて、死ぬ前のおいのりをしようとして、両手をしっかりとにぎりあわせました。その時、知らずにまほうの指輪《ゆびわ》をこすったのでした。するとたちまち、指輪のおばけが目の前につっ立ちました。
「どんなご用でございます。」と、言うの
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