して早晩、この交情を体よく打ち切る方法を考え始めたのである。ゼラール中尉は、ガスコアン大尉が沈黙してしまうと、勝利者だという自覚をもって、三十分余も彼の独断を主張したのである。
その翌日も二人は快活に挨拶した。世間話もした。が、ガスコアン大尉は、自分の意見をなるべくいうことを避けていた、ただ争われない事実だけを話していた。「二二が四」といったようなことばかりを話すことに努めていた。彼はつまらぬ意見から、ゼラール中尉の反駁を惹起《じゃっき》するのを恐れたからである。
が、こんな会話の上に、友情が育たないのはむろんである。ゼラール中尉とガスコアン大尉は、目に見えて離れていった。むろんゼラール中尉は、同じところにとどまっていたのであるが、ガスコアン大尉がだんだん後退をしたからである。大尉の方にはみるみるうちに、新しい別な友人が幾人もできた。
が、二人の友情の自然の結末がどうなったかは分からなかった。なんとなればこの二人の交情も、欧州戦争の渦巻の中に巻き込まれてしまったからである。
一九一四年の七月の下旬になると、リエージュの人心はすこぶる恟々《きょうきょう》たるものであった。リエージ
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