『染之助親方が、これは御ひいきに預りましたお礼のしるしに、差上げる寸志でございますから、まげてお受納下さいますようと申しておりました』と、云いながら、紫縮緬《むらさきちりめん》の小さい袱紗包《ふくさづつみ》を出すのでした。染之助と云う役者には、少しも興味のない筈《はず》の私も、やっぱり染之助の舞台に、名残が深く惜しまれたためでしょう。無言で黙礼しながら、その袱紗包を貰《もら》いました。何か染之助の紋の入った配り物だろう位に、思っていたものです。が、家へ帰って来て、開けますと、中から出たのは、思いがけなく一通の手紙でした。それには、役者とは思われない程の達筆でこまごまとかいた長い文句がありました。もうたしかな事は忘れてしまったが、何でもこのような意味の事が書いてあったのでした。
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 過ぐる二年あまりの年月の間に、貴女《あなた》様はその美しい二つのお眸《ひとみ》で、私を悩み殺しにしようとなさいました。貴女は私を恋していて下さるのでもなければ、それかと云って憎んでおられるのでもない。ただ長い間、私を弄《もてあそ》んでおられたとより外には、考えようもありません。初め、
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