。それに、先妻の子が男女取り交ぜて、四人もあったのですから、祖母の結婚生活が幸福でなかったのは勿論《もちろん》であります。その上、宗兵衛と云う男が、大分限者の癖に、利慾一点張の男だったらしいから、本当の愛情を祖母に注がなかったのも、尤もであります。その上、借金の抵当と云ったような形ですから、金で自由にしたのだと云う肚《はら》がありますから、美しい玩具《おもちゃ》か何かのように愛する代りに弄《もてあそ》び苛《さいな》んだのに過ぎませんでした。その頃まだ十七の真珠のように、清浄な祖母の胸に、異性の柔《やさ》しい愛情の代りに、異性の醜い圧迫や怖《おそろ》しい慾情などが、マザマザと、刻み付けられた訳でした。が、幸か不幸か、結婚した翌年宗兵衛は安政五年のコロリ大流行(今で云う虎列剌《コレラ》)で、不意に死んでしまいました。
その時、祖母は私の妻の母を懐胎していたのです。何しろ、先妻の子は四人――然《しか》もその長男は二十五にもなっていたそうです――もある所に、宗兵衛の死後、祖母が止《とど》まっていると云うことは、まだ年の若い祖母の為にも、先方の為にも思わしくないと云うので、祖母が身が二つになる
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