た道がいつもの二倍も三倍もの長い道のように思われました。が、私は、姉の家へ急ぎながらも、姉夫婦が殺されたとは、夢にも思いませんでした。ただ強盗に襲われた為に、気の弱い姉夫婦が、どんなに強い激動を受けただろうかと、そればかりが心配でした。殊に、その為に義兄の病気が重りはしないかなどと心配して居ました。姉夫婦の衣類などの中で目覚しいものは、皆私の家へ預けてありましたから、盗られたとしてもホンの小遣銭位だろうと思いましたから、その点は、少しも心配いたしませんでした。姉の家に近づくに連れて気が付くと、姉の家の雨戸が一枚開いて居て、其処《そこ》から光が戸外へ洩れて居るのが見えました。私は、姉夫婦が強盗に襲われた跡始末をして居るのだと思いました。私は一刻も早く顔を見せて、姉夫婦に安心させてやろうと思いまして、勢よく姉の家の門の中へ飛び込みました。すると、いきなり門の中の闇から、「コラッ誰だっ!」と、云って声をかける人がありました。私は強盗でないかと思って、ハッと身構えました。私は、それでも虚勢を張って、
「貴様こそ誰だっ!」と、怒鳴りました。
 すると、闇の中から私に近づいて来た鳥打を被《かぶっ》
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