のか」と、申して居りました。が、私達の一家が、一日も早く犯人の捕われることを祈って居りましたにも拘《かか》わらず、一月と経ち二月と経つ間、警察からはなんの音沙汰もありませんでした。その中に、警察の方でも、新しい事件が起れば、その方へも力を割くと云う訳で、時日の経つと云うことは犯人逮捕の可能性を段々、少くして居るようでありました。私は、待ち遠いような心に駆られて、時々知り合の警部の家を尋ねました。警部は私の顔を見ると、ちょっと気の毒そうな顔をしながら、
「もう少し待って下さい。之が遺恨などの殺人でなく強盗だけに、ちょっと挙りにくいのですが、なあに、その中に貴君方の御無念を晴して上げますから。今年中には、きっとです。東京の警視庁へも、よく頼んでありますから」と、申しました。それは姉が殺されてから、三、四月を経たその年の十月頃でした。私は今年中には必ず逮捕してやると云う警部の証言を、セメての慰とし、母に伝えて居たのであります。
ところが、その年も押しつまった十二月の半ばでした。姉の遭難以来、生きた屍骸のようになって居ました母は、腎臓炎を起して僅か四日か五日かの病で倒れてしまいました。姉が、
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