やりたいと思いました。私は、昔の人間が肉親を殺された場合、敵《かたき》打にいでて幾年もの艱苦《かんく》を忍ぶ心持が充分に解ったように思いました。私は、今でも復讐が許されるならば、土に喰い付いても犯人を探し出して、姉の無念を晴したいと思わずには居られませんでした。もし、姉夫婦の殺された原因が、遺恨だとか痴情などでありましたら、それは姉夫婦にも何等かの点に於て、少しは責任があることですから、私の無念は之れ程でもなかったのでしょうが、殺された原因が、全く強盗の為であって、その兇漢は罪も怨もない姉夫婦の命をなんの必要もないのに、不当に非道に、蹂《ふ》み躪《にじ》ったものであることを知ってからは、私達の無念は二倍にも三倍にも深められぬ訳には行きませんでした。殊にその夜張った非常線が、何の効果もなく三日経っても五日経っても犯人の手懸りが、少しも無いのを知ると、私は警察の活動が、愈々《いよいよ》まだるっこいように思われて、じっとして居られないようないらいらした心持に、ならずには居られませんでした。
父は遉に心のうちの悲憤を口には出しませんでしたが、母はよく口癖のように、
「おとしの敵はまだ捕まらん
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