て久し振りにお逢いになった義理のある人じゃありませんか。自分の家族を自分の手で縛るようなことをなすって、お母さまは苦しくないのですか。
けい 世の中には苦しくても淋しくても、しなければならないことというものがあります。叔父さまにもそれはわかってらっしゃると思いますよ。
知栄 私にはとても我慢が出来ません。ふみ子おばさまも、総子おばさまも、以前にはあんなに出入りしてらしたのにこの頃は、もうまるでよりつきもなさらない。お父さまはお父さまで、アパート住居《ずまい》なんかなすっておしまいになる。他の親類の人だってむろん、前を通っても声もかけない。くる日もくる日もお母さまと私と二人っきり、思いがけなく栄二叔父さまが帰ってらしたと思ったら又こんなことをして、おしまいになる。私にはお母様の気持がわかりません。
けい 私だって、二十年振りにお逢いした叔父さまと、こんな別れ方をするとは思ってもみませんでした。でも仕方がありません。あなたのおばあさまが以前私に仰言しゃいましたよ。誰にでも自分一人の願いというものはある。けれども、その願いを捨てなければならない場合ってものが又あるってね。
知栄 人間じゃあり
前へ 次へ
全111ページ中90ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
森本 薫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング