て1字下げ]
知栄 お母さま!
けい ……。(戻ってきて坐る)
知栄 今、おじさまを連れて行った人達は、何ですの。
けい なんですか立《たち》はだかって。お話をするならそこへお坐りなさい。
知栄 お母さま、おじさまは一体何をなすったからあの人達に連れてゆかれたのですか。
けい おじさまが何をなすったか、これから何をしようとしてらしたか、私は知りません。もう知る必要もないことです。
知栄 お母さまは、おじさまの為に何かして上げることは出来なかったのですか。あんな風にこちらから突き出すようなことをしないでも、もっとやさしくして上げる方法が考えられなかったのですか。
けい あなたには話してもわからないことです。
知栄 いいえ、私は知っています。叔父さまはうちへいらしてから、御自分のことをちっともお話しにならないのですもの、何かあると思っていたのです。お母さまもそれは知ってらっしゃるのだとばかり思っていました。
けい 私がそれを知っていたら今日迄黙って放っておかなかったでしょう。
知栄 お母さま。お母さまはそれで御自分が淋しくはないのですか。お父さまの本当の弟さんじゃありませんか。お母さまだっ
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