よう。話がすんだらそこから怒鳴ってくれ。
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出て行く。
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栄二 何ですか姉さん。毎日一緒にいて、今直ぐ話なんて……。
けい 栄二さん。私、一度伺おう伺おうと思っていたのですが、あなたは今度、一体どんな御用で内地へ戻ってみえたのですか。
栄二 いや、御用などというものはないんです。初めにいいました通り、しばらくぼんやりして何も考えないくらしをしてみたいと思いましてね。
けい 奥さんや二人の子供さんを中国に置いて御自分一人、こんな遠い所へ来てのんびりなどしていられますか。
栄二 遠い所へ来たって何《いず》れは帰るんです。そう始終妻子のことを気にもしていませんよ。向うだってたまにのうのうと、鬼のいない間に洗濯をしてみたいでしょう。
けい 何時、何処が戦争でごった返しになるかわからない中国にいて、女や子供だけで、のうのうと旦那様の留守を娯《たの》しんでなどいられるのですか。
栄二 些《いささ》か不審尋問の形をそなえていますね。姉さんの話というのはそれですか。
けい (無視して)
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