あなたは昨夜、一体何処へいらしたのですか。
栄二 そんなことをあなたに話す必要はないでしょう。私は子供じゃないのですから自分の行動を一々あなたに断ることはないと思います。
けい いいえ。話していただかなくちゃなりません。堤家の相続人の妻として、夫の家族の生活について知っておかなくちゃならないことです。堤が家にいればあの人がお伺いする筈《はず》のことです。仰言しゃって下さい。
栄二 とすれば、私は御返事をお断りする迄ですが。
けい それじゃ、あなたが向うでなすってらしたことは、私達に知られてはまずいことだと思っていいのですね。それから今度内地へ戻ってらした御用というのも、世間に知れては困る御用だと思っていいのですね。
栄二 御推察に委せます。何方にしても僕の行為についてそこ迄|立入《たちい》ったお話しは、あなたとする必要はないと思います。
けい ……。そうですか。……仕方がありません。玄関にあなたを尋ねてお客様がみえています。(名刺を放り出して)お逢いになってらっしゃい。
栄二 (ちらりとみて、ぎょっとする)姉さん。いるといったのですか。
けい 私はもっと別な御返辞をしなくちゃいけなかっ
前へ 次へ
全111ページ中86ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
森本 薫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング