く、それだけのものじゃないよ。女には、どうしても女しかもっていないっていうものがある。お前にはそれがないのだ。
けい まあ、それは一体どういうことなんですの。女しか持っていないものって何なんですか。
伸太郎 残念ながら俺にもそれがどんなものだか口でいえるほどにはわかっていない。ただお前にはそれが欠けているということだけはわかるのだ。お前は店のことを殆んどひとりで切り廻してくれている。しかしお前がそれほどに出来なかったとしても、俺は決してお前が出来損《できそこな》いだったとも女として行届かないとも思わないだろう。総子のことにしてもそうだ。お前は次から次へいろいろの話を、掻き集めるようにして持って来る。誰にでも出来ることじゃない。ないと思っていても、お前がそうすればするほど俺はお前のすることについて行けない気がするのだ。
けい あなた、それはひどいじゃありませんか。私が、お家の為を、あなたの為を、あなたの妹さんの為を思ってすることを、そう一々裏からみてらっしゃるなんてひどすぎます。
伸太郎 だからお前が悪いといってるわけじゃない。お前と俺との性質の違いだから仕方がないといっているのだ。

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