い いいえ、そんな仕方がないなんていうようなことじゃありませんよ。私はあなたと御一緒になる時なくなられたお母様からこの家のことをくれぐれもたのむといわれたのです。ですから私は、そりゃもう一生懸命、お母様にいわれた通り家の中のことお店の事と、一人でやってきたのです。そりゃ私には、あなたの出来ないとわかっている事を知らん顔をして放っておくことは出来なかったし、自分なら出来るとわかっている仕事を出来ないような顔をしてすましていることもしませんでした。だからといって、あなたからそんなことをいわれる憶えはないと思います。
伸太郎 そうなのだ、お前は、なくなったお母さんに堤の家の将来を深く託された。その時お前は堤の家の柱となり、当主である俺の保護者となるという闘志と自負心とに胸を躍らせて立ち上った。ひょっとするとお前は俺の妻になることより、その仕事に対する期待や熱意の方が大きかったのじゃないのかね。
けい 卑怯《ひきょう》ですよそれは。そんなこと今になって仰言しゃるぐらいなら、なぜ今迄私のすることを黙ってみてらしったのです。そんなに私のすることがお気に入らないなら、御自分でおやりになればいいじゃあ
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