れてしまいますよ。なんだったら、私も一緒に行ってあげますよ。
けい そうお願い出来れば私もどんなにか心丈夫ですがね。やっぱりこんなことは女一人じゃちょっと具合がわるくって……。
伸太郎 何も世間から逃れて、ひっそり暮している人の住居をそう脅《おびや》かしに行かなくってもいいんじゃないかね。
けい 別に脅やかしにゆくわけじゃありませんわ。此方は当然済まして貰う権利のある債務の話し合いに行くわけなんですもの。
伸太郎 しかしそれが無ければうちが明日から困るというわけのものでもないのだ。それにあの話は一年も前の話で、もう一応かたがついているのだろう。
けい いいえ。かたなんぞついてはいませんよ。御本人がいなくなってしまったから仕方なしにうやむやになっているだけです。あの人には随分沢山の人がひどい目に逢っているのですもの。知らして上げたらみんなどんなに喜ぶかしれませんよ。
伸太郎 そんなにお前、他の人に迄知らせるつもりなのか。
けい 知らせやしません。知らせやしませんけれど、それでいいってことになれば世の中に債務など果す人はありゃしませんわ。(笑って)なにもあなたに行って下さいというんじゃない
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