いら》して)子供が何時までも起きてるものじゃありません……お母さまはまだ御用があるんだから先におやすみなさい。
知栄 ……。
章介 さあ、今日は叔父さんとねよう。な、お母さん達は今日はお話が残ってるんだからな。さ、行こう。(と、行きかけて)あ、伸さん。例の斎藤長兵衛な。今日とんでもない所で表札をみたんだ。鎌倉の小町なんだがね。あんな所にいたんだね。探してもわからない道理さ。(入ってゆく)
精三 斎藤長兵衛というと、例の夜逃げの口なんですか。
けい ええ、そんな所にいるんじゃ、東京中探したってわからない道理ですよ。
精三 しかしよくまた、見つかったものですね、偶然なのかな。
けい そうなんですって。御自分の用事で鎌倉までいらしって、夕立にあったものだから雨やどりをしようと思って何の気なしに表札をみたらそうだったというんでしょ。悪いことは出来ないもんですね。
精三 天網恢々《てんもうかいかい》ですかな。そういうのは一つ見せしめのために大いに絞《しぼ》ってやるんですよ。
けい ええ。だから、明日にでも私、行って来ようと思っているんですがね。
精三 そりゃそうなさい。ぐずぐずしていると又逃げら
前へ 次へ
全111ページ中60ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
森本 薫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング