決めたなら決めたで、そっちへどんどんお金を注ぎこむ。支那人が日本人と仲よくしてからほんとに暮らしが楽になったと思うようにするのです。それ以外に手はありませんよ。
章介 そう簡単に言うがね、袁世凱《えんせいがい》という人間は、とにかくこの間の第二革命で清朝に替る大勢力となってしまったが、国内では彼の政策を必ずしも歓迎していない。そこへ来ると孫文《そんぶん》は、一時日本に来ていたこともあるし、支持者も随分いるようだが、孫文の三民主義という思想の中には共産主義に一脈通じるものがすくなからず入っているのだ。袁世凱と結ぶか、孫文の思想を支持するか、これは仲々複雑微妙な問題なのだ。
けい いいえ、だから、思想は思想ですよ。思想ってものは政治家が机の上で考え出すものです。権兵衛や太郎兵衛は思想を食べて生きてるんじゃありませんよ。(笑う)
知栄 お母さま、お土産《みやげ》は?
けい あ、しまった、お母さま御用で手間取れたものだからお土産すっかり忘れてしまった。御免なさい。
知栄 ううん。(からだをふりすねる)
けい ああ、苦しい。(帯をゆるめて)私はね、日本のえらい政治家や軍部の連中が、もっと下の権兵
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