のよ。眼をつぶって走って通ったわ。すれ違ってゆく人がみんなにやにやして、私の顔をみるような気がするの……。(眼を拭く)
ふみ 姉さん……姉さんどうしたのよ急に……。
総子 いいのよ。ほっといて……。
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伸太郎。
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伸太郎 おや、お客さまはもうお帰りになったのかい。
ふみ いいえ。精三と将棋をお始めになったんですってさ。ほんとうにうちの旦那様にも困ってしまうわ。
伸太郎 けいはまだかい。
ふみ まだなのよ。何してらっしゃるんでしょうね。
伸太郎 仕様がないなあ。すべて自分で段取りをしておいて。
ふみ 全体どこへいらっしゃったのよ。
伸太郎 うん、工業クラブで対支貿易の懇談会があるんだがね。
ふみ あら、そんなものに迄姉さんが出てらっしゃるの。
伸太郎 (苦笑)俺が出るより確かかもしれんからね……。しかし、二人だけ放っておくわけにもゆかないだろうね。
ふみ 精三とお見合いにいらっしたわけじゃないんですからねえ。
伸太郎 お前、とも角部屋へ戻っていたらどうだ。
総子 私なんか
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