総子 困っちまうなあ私。どうしていいんだかわからないわ。猪瀬さん、精三さんと将棋を始めてしまったのよ。兄さんは自分の部屋へ入ってしまって本を読んでるし、私何処にいて何をしていいんだかわからないじゃないの。
ふみ まあ。お見合に来て将棋をさしているなんてどういうの。
総子 だって、将棋をしましょうなんていい出したのは精三さんなのよ。
ふみ 呆れた。あの人は、そういう人なのよ。時と所っていう考えがまるでないんですからね。第一お見合の席なんてものは挨拶さえすめば当人同志放っといて、みんな引込んじまえばいいものよ。姉さんが傍にいてくれなんていうものだから、いい気になって腰をすえてるんじゃないの。半分は姉さんがいけないのよ。
総子 だって……二人っきりにされちゃ私困るじゃないの。何を話していいんだかわからないし。
ふみ 話なんか、あなたが考えなくても先様《さきさま》でよろしくやって下さいますよ。初めてお見合いするんじゃあるまいし。
総子 よくってよ。度々《たびたび》のお見合いで御迷惑ならどうぞお帰りになって頂戴。
ふみ あら。私はなにもそんなつもりで言ったんじゃないわ。そうむきにならなくったって
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