そうだけど。三つくらいの時に一度帰ってきたわよ。あんた随分よくして貰って方々|抱《だ》っこして行ったりしたんだけどね。
知栄 しらないわ。栄二おじさんて支那で、何しているの。やっぱりお父さんのお店の仕事しているの。
ふみ いいえ、叔父さんには叔父さんでお仕事があるのよ。何をしているんだか、私にもよくわからないけれど……。
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総子、ふみよりずっと派手な衣裳。若づくりの濃化粧。
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総子 ああ暑い、何て蒸《む》すんでしょうね今日は。(袂で煽ぎながら)夜になってもまるで風がないんだもの。息がつまりそうだわ。
ふみ (にやにやして)暑いのは風のないせいばかりじゃなさそうね。
総子 あら、どうして、変なこといわないで頂戴。(入ってきて)知栄ちゃん、お母さままだ。
知栄 まだよ。
ふみ 知栄ちゃん、お母さまいなくってつまんないでしょ。
知栄 ううん。お母さまお家にいたって、お店の御用ばっかりで私と遊んでくれないんだもん。
ふみ それじゃ、知栄ちゃんは誰と遊ぶの毎日。
知栄 一人で。
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