だか妙な気がしますわ。
栄二 だって、船は海を渡るために出来てるんだぜ。別に妙なことはないさ。
けい そりゃそうですけれど、向うには清国人ばっかり住んでいてみんな清国語で話したり泣いたりしてるんでございましょ。それだのに私達はみんな日本語を話したり、買物したりしてるんですもの。おかしいわ。
栄二 そうかね、僕は日本人が清国語で話をしたり清国人が日本語で喧嘩をしたり怒ったりしたら、その方がおかしいと思うがね。
けい ええ、それはそうかも知れませんわ。でも私のいうのは、そういうすっかり何も彼《か》も違った二つの国がですね、まるで遠くにあるようでいて実は案外近くにあるということ……。なんだかうまくいえないわ。
栄二 僕は三、四年前には、清国へ渡って馬賊になろうなんて真面目に考えていたんだ。
けい まあ、でも、あなた様ならお似合いになるかもしれませんわ。
栄二 おい、そりゃ僕を賞《ほ》めたつもりかい。
けい あら、別にそんなつもりで申し上げたんじゃありませんわ。ただそう思いましたからつい。
栄二 尚よくないじゃないか、それじゃあ。
けい すみません。
栄二 謝ったってもう遅いよ。
けい 私、清
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