を埋める土を持ってくるのに向うへ水溜りを掘ってるようなものですって、手数が一遍ですむようにこの次から大工を呼びなさいって奥さまが……。
栄二 お前、余計なことを告口《つげぐち》するからだよ。
けい 私じゃございませんわ。
栄二 お咲の奴だな。後で水ぶっかけてやるから。
けい あら、そんなことなすったらそれこそ私、恨まれてしまいますわ。(袂をさぐる)
栄二 (けいのたすきを見つけほうってやる)それより又船見に連れてってやろうか。
けい 結構でございますわ。
栄二 なんだい。今日はいやに用心深いんだな。
けい だって、あなたさまのは、私をだしにして御自分が港へお行きになりたいのでございましょう。向うへ行ったら私なんかおっぽり出して何処かへ行っておしまいになるんですもの。
栄二 お前だって随分、珍しがってデッキを走ったり転んだりしたじゃないか、船員達が笑ってたぜ。
けい あら。あなたのように船底へもぐり込んで釜焚《かまた》きに怒鳴られたりはしませんわ。
栄二 止そうや。お前と僕だけしかしらないことだし、あんまり自慢になる話じゃないからね。
けい あの船が海を渡って清国の港迄ゆくなんて、私なん
前へ
次へ
全111ページ中40ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
森本 薫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング