でございましょう。
章介 ありふれた話さ。女にとって、ちやほやしてくれる男はいわば勲章みたいなものさ。多ければ多いほどいいんで邪魔にはならんもんだからね、まあお前なんかもよく気をつけるのだな。(入ってゆく、けい呆れたような顔で見送っている。背後から栄二)
栄二 おい、なにをぽかんとしてるんだい。
けい いえ、何にも。
栄二 その桶どうするんだ。
けい 洗って漬物をするのでございます。
栄二 僕、洗ってやろうか。
けい よろしゅうございます。
栄二 遠慮するなよ。
けい 箍《たが》が外れてバラバラになっても困りますもの。
栄二 大丈夫だよ。
けい 御本人がお受け合いになっても駄目でございます。
栄二 いやに信用がないんだな。
けい 物置の棚を作っていただいて懲《こ》りていますから。
栄二 へえ、どういうわけだい? あれ壊れやしないだろう、そうすぐには。
けい 壊れはしませんけど、お庭の塀の板をはがしておいでになったそうでございますね。
栄二 何だ、知ってるのか。
けい 今朝、大工さんが来て塀を直して居りましたわ。
栄二 あすこは板がない方が通りへ出るのに近いんだがな。
けい 此方の水溜り
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