ふみ、後から精三。
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ふみ いいじゃありませんか。さっさとついてらっしゃい。此方《こちら》からの方がお部屋に近いのよ、あら、いらっしゃい、叔父さま。
章介 ああお帰り、お花見かね。
ふみ フェルマー先生のレッスンに行って来たんですよ。お花見なんて嫌い。埃っぽくってあれじゃお花見だか埃見だかわかりゃしない。
精三 今日は。
章介 やあ、これはこれは。
ふみ 精三さんの妹さんもフェルマー先生のところへ来てらっしゃるんです。あたしあすこへ紹介してもらっていいことしたと思いますわ。親切でお稽古が熱心で……。
精三 そうなんです。音楽家というものはむら気で気むずかしいものですが、あの人にはそういうところがありません。家へなんかよく、遊びに来られますが、まるで親類かなんかのように気がるで話し易いんです。
章介 すると精三君は料理にも精通してるし音楽にも趣味が深いというわけですな。
精三 いやあ。私のはただ、聞くというだけで一向何もわかりゃしないんです。しかし、音楽がわかるとかわからんとかいうことは、仲々むつかしいことで、本人がわ
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