しません。わたしが何かを言う以上に、今度の戦争じゃ貴女はひどい打撃を受けられた筈でしょう。
けい 私はわたしの体と心をささえていたものを、一ぺんにへし折られてしまった様な気がします。何をしても無駄な様な気もするし、じっとしてはいられない様な気もするし、ほんとは何が何だか分らなくなってしまっているのです。
栄二 そいつは貴女一人だけの事じゃありません。この国全部が生れて初めての大きな打撃によろめいているのですからね。而しそれも何時かは収まるでしょう。わたし達みんなの努力でそうする外ないのです。この見渡す限りの焼跡にも間もなく今までの日本とはまるで違った新しい何かが芽をふいて来るでしょう。人間の恨よりもその新しい芽の方にわたしは興味を感じています。ああ、おしゃべりをしていて気が付かなかったが夜が更けたせいか急に寒くなった様ですね。
けい 中へ入ってお寝《やす》みになりましたら……。
栄二 いやそれより焚火でもしましょうか。今夜はこのまま眠れそうにもない。どうせこうなれば貴女の厄介者です。よろしくお願いします。
けい (立ちながら)わたしもどんなに心丈夫か知れません。どうぞ何時までも厄介にな
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