しか》しすっかり年をとってしまいましたよ。貴女も随分お変りになった。月の光じゃ一寸見分けがつかない位ですよ。(又切石に坐る)
けい (栄二の方に近づきつつ)此の二三年私もすっかり老い込んでしまいました。
栄二 全くこの四年間の世の中の動き方ときたらすさまじかったですからなあ。そいつを乗り切る為には誰れもが十年を一年にしてやって来たんです。尤も其のお蔭で私の様に二度と見られないと思った世の中へひょっくり戻って来られた人間もいるにはいますがね。
けい ほんとうに……御無事で何よりでした。何時……。
栄二 出たのは一週間も前でしたがね、友達の家で昨日まで休ませて貰って、こっちに用もあり貴女方の消息も知りたいので、友達は引き止めてくれたんですが。ほんとはもう少しおそく上京する事になっているんです。
けい この頃はラジオも聞かず新聞も読まずなもんで……お迎えもしないで。
栄二 何そんなものはいりやしません。それより娘達を引き取って下すったそうで有難うございました。
けい ……そんな事くらいであなたへのお詫びが出来るわけではありません。
栄二 そんな恨《うらみ》が言いたい位なら、わざわざ訪ねて来や
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