って下さいまし。(と言いながら壕舎の中へ焚物を取りに行く)
栄二 (後からついて行って柴を受取りながら)やあ、これは上等すぎる。どこか其の辺で拾って来てもよかったんだ。
けい (壕から出て来ながら)焼夷弾の焼跡には棒切れなんか残ってやしません。探したって無駄な事ですよ。
栄二 (石の所へもどって)はあ。すっかり専門家になりましたね。(二人一寸笑う。柴を組み合せながらふと手をやめて)わたしの娘達は。
けい 知栄達と一緒に大分前から疎開をさせてあります。木曾川のずっと上流で不便な処ですが温泉が出たりして落ち付けば住みいい処です。
栄二 ……有難ういろいろ、土浦にいると言うのは総子ですか。
けい そうです。猪瀬さんは早い目に思い切って工場をお売りになったのでとてもいい事なさいました。
栄二 ふみの方も無事にやっているらしいですね。
けい あちらも戦争中はいろいろむずかしい事もあった様ですがこれからはいろんな事がずっとしよくなるだろうと言う事です。
栄二 (燐寸《マッチ》を受取って火をつける様にしゃがみ込んでけいの顔をさけながら)兄貴が亡くなったと言う事は聞いたけれど、別居のままですか。
けい
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