くさって)なに笑う事はないさ、俺はほんとにそう思っているんだ。
けい もう、よろしゅうございます。知栄の事は確かに私の方で致します。何だかだと言うよりこの家も広いのですからあの子さえ良ければ、此方へ越して来たらどうでしょう。
伸太郎 うん、いっそそうした方がいろんな面倒が却って少ないかも知れないな。俺の方からもそうする様にすすめてみよう。
けい 私も今夜にでも一寸、行ってみます。
伸太郎 ああ、それでやれやれだ。何だか大変な問題の様な気がしていたが話してみるとそうでもないのかなあ、変な気持ちだな。
けい 一役おすませになったのですからね。
伸太郎 ちょいと高い閾《しきい》だったが、娘のお蔭で越えさせられてしまった。俺もこれでやっぱり親爺《おやじ》の端っくれかな。
けい 私達も、こんな話をするようになったのですから、もう年をとったのですね。
伸太郎 うん、俺などはもう。(とちょっと頭をみせて)白髪《しらが》が出て来た。
けい (微笑)でも、まだ白髪をお出しになる年じゃありませんでしょう。
伸太郎 いや、ほんとだよ。以前は時々知栄が抜いてくれたんだがね。この頃じゃもう、二本や三本ずつ、抜い
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