ん+予」、第3水準1−14−11] 言えるかしら、そういう風に……。
諏訪 言えるようにしておくの。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] どうでしょう。
諏訪 しっかりして頂戴。そろそろ、あなたの回りにも男の人が集ってくるわよ。そういう人達を、はきはき片づける用意をしとかなきゃァ……。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 大丈夫だわ。母さん、妾……。
諏訪 大丈夫でないのよ、ところが。誰でもそう思ってるの、始めはね。でも、いざとなると……。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 母さんみたいに……。
諏訪 厭だ、この子は……。母さんのは。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 嘘よ、母さん。お父さんは妾だって好きよ。
諏訪 母さんは怖いのよ。あなたは、こんなに綺麗になっちゃったし、是《これ》からが心配よ。あなたは自分独りでこんなになったと思っちゃ駄目よ、みんな母さんのを取ってって……母さんはだんだん……。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 嘘。母さんだってこんなに綺麗だわ。
諏訪 母さんに迄、お世辞を言うようになったのね、この子は……。もうすぐ、あなたも、恋をする、すると……。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] (ぱっと赧《あか》くなる)あら!
諏訪 おや、どうして? 赧あくなったわよ、その顔。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] しらない。
諏訪 ふむ。これは、少しどうかしてる。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] (テーブルの傍へ行って)パン、これでいいの。
諏訪 わかった。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] そいでいいんですか、何にもつけないの。
諏訪 わかったわかった。(お茶をのむ)
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 冷えてない?
諏訪 冷えてない? だって……。あなたの考えてることが分りましたって言ってるの。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] (真面目くさって)母さん、考え違いしてよ。妾は……もう……(続けて云おうとする)
[#ここから3字下げ]
鉄風、二階に現れる。
[#ここで字下げ終わり]
鉄風 そこへ行ってもいいかい。
諏訪 どうぞどうぞ。
鉄風 (降りながら)愉快そうだな。
諏訪 そうでしょう。愉快なの。妾達。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 妾は別よ。
諏訪 えへッ! (美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]の頬を突く)美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]のバカヤロー。
鉄風 この頃家の連中は習慣がついてきたようだね。自分達だけの言葉で話す。
諏訪 いいことよ、妾少し虐《いじ》めてやりたいの、この子を。ええそう虐められてもいいわけがあるのよ、この子はね。ふふ……。
鉄風 変態性みたようだな、厭な笑いかただ。
諏訪 どうして、そんなことばかり被仰るの。生理学を始めたわけじゃァないんでしょ。
鉄風 美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]は、お父さんをお茶に呼んでくれるのを忘れたようだな。少し、冷えてるよ、これは。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 替えて来ましょうか。
鉄風 いいよ、これでいい。ところで、(諏訪に)先刻の話は、どうなった。
諏訪 さっきの話って……言うと。
鉄風 言うと? 俺は、自分の部屋に這入《はい》ったけれど一向落ちつかない。まるで自分が求婚してるような気がしてたんだ。息を殺して汗を流してたんだよ。ところが一向何にも言ってくれない。女はどうも、割に平気だね、こういうことは……。
諏訪 (思い出して)ああ、その話ね、その話だったら、あのう、……(美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]の前で一寸云い難い)ええ、一寸だけ。でもわからないの。まだゆっくり……そのうち……。
[#ここから3字下げ]
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]立ち上る。
[#ここで字下げ終わり]
鉄風 なに行かなくってもいいんだよ。家の中のことだもの。お前にだって、聴いておいてもらわなくちゃァ。(諏訪に)美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]の意見だって聴いておいた方がよくないか。
諏訪 (煮えきらない)ええ……それは……ねえ……。
鉄風 それはねえ、ということはないよ。必要だ。しかし、須貝は何て言うんだね。
諏訪 だけど妾、まだ、何て言っていいか、わからないわ。そんなところ迄話せなかったんだもの。(腹立たしく)あなたがいけないのよ。妾一人に押っつけとくから……妾、知りませんよ、どうなったって……。困ったわ。ほんとに困ったことになったわ。
鉄風 君が、困るわけは、ないと思うがねえ。須貝は未納じゃ、不足だと……でも……。
[#ここから3字下げ]
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]、一寸堅くなる。
[#ここで字下げ終わり]
諏訪 そうじゃないの、そうじゃァないんですよ。困ったわね、何う言ったらいいかしら、ただもう、ぼんやり、結婚は厭だって言うの、あの人。
鉄風 ぼんやり厭だって言うと……。
諏訪 厭なことは、はっきりしてるのよ。
鉄風 じゃァ、何だい、そのぼんやりしてるのは……
諏訪 それはね。(荒っぽく)妾にだってわからないわ。そんなに将棋の詰めてみたいに言われたって返答出来ないじゃありませんか。
[#ここから3字下げ]
鉄風、ぽかんとしている。
[#ここで字下げ終わり]
諏訪 (はっとして、美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]に)言って頂戴、正直によ。胡魔化しちゃ厭よ。美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]さん、美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]さん。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 痛いわ、母さん。
諏訪 あなたの好きな人って、須貝さんじゃないの。
[#ここから3字下げ]
間。
[#ここで字下げ終わり]
鉄風 (唸る)――。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] (英雄的に微笑《ほほえ》んで)そうじゃないわ。母さん。
鉄風 (諏訪に話す機会を与えずに)実は……なんだ、未納の奴、須貝と一緒にして欲しいらしいんだ。それで……俺としては……しかしほんとかね、お前それで構わないのか。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] ちっとも構わないわ、お父さん。妾だって賛成だわ、丁度いいじゃありませんの。二人は仲良しだし、ほんとに仲がいいんだから。
鉄風 お前がそう言うから、それに間違いないだろう。それじゃァ、この話は、ちっとも難しいことはないわけだね。
[#ここから3字下げ]
諏訪、落ちつかない。
[#ここで字下げ終わり]
鉄風 (諏訪に)お前だって、別に考はないんだろう。じゃあ、それでいいんだな。後はただ……。
諏訪 このお茶は、すっかり冷えて了ったわ。
鉄風 (美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]に)だけど、俺は順序として、出来ればお前の方からはっきりしておきたいと思ったんだ。母さんがいいと言うから放っておいたんだが、お前にも、考えてる人があるなら、この際言ってみないか。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] ――。
鉄風 考え込むことはないよ。みんな、それで気が楽になることだ。未納の奴だけが、為《し》たいようにするのは不公平だからな。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] ええ……妾……でも。
鉄風 (得意で)叱りゃしないよ。約束してもいい。俺は公平な処置が好きだ。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 言うわ。妾……お兄さん……。
鉄風 (茫然)一寸……昌允か。
[#ここから3字下げ]
間。
[#ここで字下げ終わり]
鉄風 俺は、出鱈目は言わんよ。しかし、稍々《やや》手近過ぎた形だね。
[#ここから3字下げ]
諏訪が答えない間に、未納。
[#ここで字下げ終わり]
未納 おや、みんな揃ってるのね。お父さん、今夜、踊らない。いいでしょう。
鉄風 う……そりゃ、お前達が踊るぶんにゃァ異存はないさ。
未納 母さん、踊って呉れる。お友だち呼んで来ていい?
鉄風 無茶を言うな。母さんは今日は、早く寝るよ。
未納 だってェ、そいじゃァ、つまんないじゃないの。肝腎《かんじん》の母さんが踊って呉れなきゃァ。妾達ばかりいくら……。
鉄風 お前達は踊るのが遊びだが、母さんは踊るのは仕事だ。家へ帰ってまで踊らされちゃァたまらないよ。
未納 ねえ、母さん! 踊りましょうよ、よう。
諏訪 今夜はかんにんしてね。母さん少し、頭痛よ。心臓も苦しいの。
未納 あらそう。いけないわね。どんな具合なの。熱でも、あるんじゃない。お医者呼ばなくっていいの。
諏訪 いえ。そんなでもないの。だから、お医者さんなんて、いいのよ。ほんのね、少し。
鉄風 そりゃ、いかんな。今日なんか、あまり出歩くのは宜《よろ》しくなかった。日射病じゃないかな。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 日射病だなんてまだ六月ですよ。
鉄風 六月と言っても、もう七月だ。
未納 莫迦々々しい。日射病なんて馬のする病気じゃないの。
鉄風 兎に角、お前は常識が無さ過ぎると言うんだ。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] あんまり、いろんなことで、気を使い過ぎたんじゃないかしら。公演のことや、なんか……そう言うことで。
諏訪 え、ええ、そうかもしれないわ。
未納 そうだわ、きっとそうよ、大事にしなくちゃァ……。
鉄風 神経過労だね、すると。
諏訪 後生だから一々名前をつけないで下さいな。(立ち上る。部屋の隅へ行ってレコードをかける。低い音)あなたの話を聞いてるとよけい苛《い》ら苛《い》らするわよ。
未納 妾、素敵なタンゴ、憶えて来たんだがなあ。
鉄風 妙なレヴュ小屋をうろつくのは少し控えて貰いたいものだ。
未納 憚《はばか》り……だわ。
鉄風 それにお前のは踊りとは言えんよ。あれは体操だ。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] まあ、ひどい。
未納 いいわ。自分が巧く踊れないもんで、仲間が欲しいんだわ。
[#ここから3字下げ]
間。
[#ここで字下げ終わり]
未納 (一寸レコードについて口の中で唄う)母さん、昨晩言った話ね。
諏訪 (警戒して)え。
未納 あれ、ちょっと止《や》めにしといてね。
諏訪 どうして。
未納 どうしてってことないの。でも、考えてみたいの。
諏訪 だって、考えた上のことなんでしょ。
未納 も一度よ、も一度ね。妾うっかりしていたことがあるの。
鉄風 しかし、それは少し遅過ぎたようだね。
未納 (一本喰わせる気で)お父さんの知らないことよ。
鉄風 ところが知れずにおらんから面白い。
未納 母さん、お父さんに言っちゃったの。
鉄風 それどころじゃァないさ。
未納 それじゃ……そう、もう済んじゃったの。
諏訪 早い方がいいと思ったから……。でもそんなにはっきりした話じゃないのよ。
未納 どうしましょう。困っちゃった、妾……。
諏訪 母さんの方が困ってるのよ。
未納 それは、そうだけど……。妾……妾ね。
鉄風 お前が言い出しといて、お前が困るのは可笑しいよ。きまりが悪いんだろう。
未納 (思い切って)お姉さん!
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] (泰然)なあに。
未納 (出鼻をくじかれて)母さん。ほんとはね、妾よりお姉さんの方が須貝さんを好きなのよ。
諏訪 だって、未納ちゃん!
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 何言ってるの、未納ちゃん。
鉄風 お前は間違ってるよ、未納。
}(同時に)[#「}(同時に)」は前2行の中央、下に]
未納 ほんとよ、冗談じゃないのよ。だから昨晩の話は取消しよ。後は母さん達いいようにして頂戴。
諏訪 でもそんなことはなにも。
未納
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