たは。(間、一寸|躊《ためら》った後)あなた、此の間、よし子さんのところへお招《よ》ばれして行ったね、お祭とかで。
あさ子 え。
真紀 あの時、何方《どなた》かに会ったあすこで。
あさ子 いいえ。
真紀 そう。
あさ子 よし子さんのお兄さんって、あんな方あたししらなかった、あの時迄。
真紀 会ったのかい。その方に。
あさ子 鈴木内科へ出てらっしゃるんですって。
真紀 弘さんて方だね。
あさ子 あら母さん知ってるの?
真紀 そりゃ……あなたの知らないことで私の知ってることだってあるさ。
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間。
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真紀 (何か云いそうにする)
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収、黙って静かに入る。痩せた学生。二十三。
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あさ子 来た来た。
真紀 (驚いて振返る)あら。
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収、笑って一寸頭を下げる。
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真紀 なんです、あさ子。来た来たって何?
収 兎を追い出してるつもりですよ、おばさん。
真紀 ほんと。失礼よ。
あさ子 (大きな声で笑う)
収 怪《け》しからんね。他人が入ってくると、いきなりげらげら笑
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