先生がお帰りになってからだってあなた達、随分、調子にのってお喋りしてるようよ。
あさ子 母さん大概|傍《そば》にいるじゃないの。
真紀 いない時のことよ。
あさ子 いない時だって、おんなし。
真紀 昨日はお天気だったが明日は雨だろう、とか、家の二階の梯子段《はしごだん》は十二段だけれどあんたんところは何段ですって話だの、そんな話ばかりかい。
あさ子 そんなに何時も何時もお天気の話ばかり、しやしない。
真紀 あなたのは、大概そのへんよ。
あさ子 (睨む)まあ。
[#ここから3字下げ]
あさ子、指先で眉を撫でつける、之で三度目くらい。真紀、真似る。
[#ここで字下げ終わり]
あさ子 母さん!
真紀 私が言うのよ、それは。わるい癖よ。
あさ子 憚《はば》かりさま。
真紀 いくつだい、収さん。
あさ子 (拗《す》ねて)しらない。
真紀 二十、四?
あさ子 三。
真紀 じゃ、一つ下ね、あなたより、そうは見えないねえ。
あさ子 老《ふ》けてみえる方ね。
真紀 男はその方がいいんだよ。
あさ子 女は?
真紀 女はあなた、(気を換えて)莫迦《ばか》なことを訊《き》くものじゃない。何時だってそれよ、あな
前へ 次へ
全38ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
森本 薫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング