揶揄うんじゃないでしょうね。
あさ子 どうして?
真紀 どうしてって、そうじゃないか。
あさ子 でも、あたし、することがないんだもの。
真紀 することならいくらでもあるじゃないの、他に。
あさ子 どんなこと、じゃあ?
真紀 そうね、お茶をたてるとか、お裁縫だとか。その他にも、花を活《い》けるとか、それからまた時にはピアノをさらうとか、何だってあるよ。それだけあれば、為《す》ることが無いなんて言やしないな、母さんなら。
あさ子 そうかしら。
真紀 贅沢《ぜいたく》よ、あなた。
あさ子 でもね、あたし薬専へ行ってた間、ちっともあんなことしなかったでしょう。だからこの頃になって急にあれやこれや一遍にやり出すとね、母さん怒っちゃ厭よ、怒りゃしないわね、あたし、あんなものがみんな、なんだか、こう大変な大仕事みたような気がして仕方が無いの。木曜がお茶で、土曜がお花、月曜がピアノでその他の日がお裁縫でしょう。だからそのほかの時に、独りでやってみる気なんて、起りやしないの。そのくせ、じっとしてると、……長い間学校にいた所為《せい》かしら。
真紀 ――。
あさ子 時々、あたしね、お友達のことなんか、考え
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